資本剰余金を原資とする配当金とは?メリットと注意点を解説
2023-10-15
はじめに
株主にとって、配当金は企業の業績や株価に応じて受け取ることのできる利益の一つです。
配当金の原資となる剰余金は、利益剰余金だけではなく、資本剰余金も含まれます。
この記事では、資本剰余金を原資とする配当金について、その定義やメリット、注意点などを解説します。
資本剰余金の定義
資本剰余金とは、会社が資本取引(株主からの払込など、株主との直接的な取引)を行った結果生じた金額のうち、資本金を除いた部分のことをいいます。
資本剰余金は、以下の2種類に分けられます。
資本準備金
資本準備金とは、創業時に払い込まれた資金や、株式発行時に発生する割増出資、新株予約権の行使によって発生した資金の内、資本金に計上しなかった資金のことです。
万が一、事業で赤字が発生した際などの補填のために備えておくという目的で計上されます。
資本準備金は、会社法で積み立てが義務付けられています。
資本取引の結果払い込まれた金額のうち、1/2までの範囲で積み立てる必要があります(会社法445条2項, 3項)。
会社法第445条第2項
資本金の払込み又は給付に係る額の1/2を超えない額は、資本金として計上しないことができる。
会社法第445条第3項
資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならない。
その他資本剰余金
その他資本剰余金とは、資本剰余金のうち「資本準備金以外の部分」の資金のことです。
増資、減資、自社株式の取得や処分などの資本取引によって発生した差額などが計上されます。
資本剰余金のうち、どの部分が配当の原資になるか?
資本剰余金には、「資本剰余金」と「その他資本剰余金」の2種類があるとお伝えしました。
このうち、配当の原資となるのは「その他資本剰余金」です。
資本準備金は株主への払戻しや減資の補填などが目的となっており、配当の原資とすることはできません。
なぜ資本準備金は配当の原資にできないかというと、資本準備金は剰余金ではないためです。
配当について、会社法では以下のように定められています。
会社法第105条
1. 株主は、その有する株式につき次に掲げる権利その他この法律の規定により認められた権利を有する。
1.剰余金の配当を受ける権利
剰余金とは、純資産から資本金・準備金等を控除した額と定められています(会社法第446条1項)。
よって、資本準備金は配当の原資にはできません。
一方で、その他資本剰余金は株主への配当の原資とすることが可能です。
資本剰余金を原資とする配当金は、その他資本剰余金から支出されます。
ここまでの内容を図にすると、以下のようになります。
資本剰余金を原資とする配当金とは?
資本剰余金を原資とする配当金とは、資本剰余金から支払われる配当金のことを指します。
実際は、資本剰余金の中でもその他資本剰余金から支払われます。
なぜ資本剰余金を原資とする配当を行うのか?
通常、配当金は企業がその期に稼いだ当期利益か、または過去に稼いだ利益の積み立てである利益剰余金から支払われます。
では、なぜ資本剰余金を原資とする配当を行うのでしょうか?
資本剰余金を原資とする配当を行う理由をいくつかご紹介します。
理由1. 利益がマイナスでも配当を出したい
例えば利益が予想より下回り、配当が維持できない場合などに、資本剰余金を原資として配当を実施することがあります。
理由2. 合併などで利益剰余金がない
株式移転や合併などで利益剰余金がない状態で配当を行いたい場合などに、資本剰余金を原資として配当を実施することがあります。
理由3. 減資をして出資金を株主に返還したい
減資による剰余金を通じて出資金を株主に返還したい場合などに、資本剰余金を原資として配当を実施することがあります。
利益剰余金を原資とする配当金との違いは?
利益剰余金を原資とする配当金と資本剰余金を原資とする配当金の大きな違いは、配当を受けた株主に対する源泉税の取り扱いです。
利益剰余金を原資とする配当金は配当所得となります。
配当を実施する会社にとっては、利益剰余金の場合は源泉徴収後の金額を配当として支払います。
源泉徴収される税率については、以下の通り2パターン存在します。
パターン1. 上場株式の配当の場合
源泉徴収される税率は20.315%となります。
(15.315% + 地方税 5%)
パターン2. 非上場企業の配当の場合
源泉徴収される税率は20.42%となります。
参考: 国税庁 配当金を受け取ったとき(配当所得)(2023/10/05アクセス)
一方、資本剰余金を原資とする配当金は、保有株式の一部を譲渡したものとみなされるため、譲渡所得となります。
ただし、みなし譲渡に該当しない部分(みなし配当)は、配当所得となります。
配当を実施する会社にとっては、みなし配当部分について源泉徴収を行い、譲渡所得は非課税のまま、両者を足し合わせた金額を配当として支払います。
配当を受け取った株主は、みなし配当部分については原則として確定申告を行います。
ここからは、配当を実施する会社側、配当を受け取る株主側それぞれがどのような対応をする必要があるかを示します。
配当を行う会社側の対応
対応1. 会計処理
その他資本剰余金を原資として剰余金の配当を行う場合は、その他資本剰余金の減少について、以下のように会計処理を行います。
(借)その他資本剰余金 XXX / (貸)現預金 XXX
対応2. 税務処理
資本剰余金を原資とする配当を実施する会社は、みなし配当分を算出し、源泉徴収してから株主への配当を実施する必要があります。
みなし配当が発生しなかった場合、税務処理は不要です。
みなし配当を含む配当金額の算出手順は以下の通りです。
手順1. 資本金の減少額を算出
資本金の減少額のことを「減資資本金額」と呼びます。
減資資本金額は、以下の式で算出されます。
例として、以下のケースを考えます。
- 資本金: 1,000,000 円
- 配当後の資本剰余金の額: 4,000,000 円
- 前期末の簿価純資産額: 16,000,000 円
この場合、以下の通り原資資本金額は 250,000円となります。
手順2. みなし配当金額を算出
みなし配当金額は、以下の式で算出されます。
配当によって払い戻す金額(払戻額) − ①原資資本金額 = みなし配当金額
例として、以下のケースを考えます。
- 払戻額: 300,000 円
この場合、みなし配当金額は 50,000円 となります。
300,000 円(払戻額) − 250,000 円(①)= 50,000円・・・②みなし配当金額
手順3. 株主ごとの配当金額を算出
株主が複数の場合、みなし配当金額は株式数に基づいて按分されます。
例として、以下のような株主Aへ配当を実施するケースを考えます。
- 発行済株式総数: 100株・・・③
- 株主Aの保有株式数: 2株・・・④
株主Aに対するみなし配当金額は、以下の通り1,000円となります。
50,000(②)× 2(④) ÷ 100(③)= 1,000円(株主Aのみなし配当金額)
注意点として、みなし配当は必ず発生するとは限りません。
みなし配当が発生しないケースとして、事業全部を譲り受けにより取得する場合、合併反対株主の買取請求権に応じた株式の取得の場合などが考えられます。
配当を受ける株主側の対応
対応1. 会計処理
その他資本剰余金を原資として剰余金の配当を受けた場合は、原則として配当金額を有価証券から減額します。
具体的には、以下のように会計処理を行います。
(借)現預金 XXX / (貸)投資有価証券 XXX
もし対象の有価証券が売買目的有価証券であれば、受取配当金として計上します。
(借)現預金 XXX / (貸)受取配当金 XXX
対応2. 税務処理
資本剰余金を原資とする配当を受け取った株主は、譲渡所得を算出し、原則としては確定申告を行う必要があります。
以下に譲渡所得の算出例を示します。
- 取得価額は 10,000円 ・・・①
- 交付される配当金は 1,500円・・・②
- うち、みなし配当は 1,000円・・・③
- 純資産減少割合は 0.01・・・④
計算手順1. みなし譲渡金額の算出
②交付される配当金 - ③みなし配当 = みなし譲渡金額・・・⑤
1,500円(②) − 1,000円(③) = 500円・・・⑤
計算手順2. みなし譲渡部分の取得価額算出
①取得価額 × ④純資産減少割合 = みなし譲渡部分の取得価額・・・⑥
10,000円(①)× 0.01(④) = 100円・・・⑥
計算手順3. 譲渡所得の算出
⑤みなし譲渡金額 - ⑥みなし譲渡部分の取得価額 = 譲渡所得・・・⑦
500円(⑤) − 100円(⑥) = 400円・・・⑦
以上の計算により、譲渡所得は400円と算出されました。
確定申告の際の税率は、前項「利益剰余金を原資とする配当金との違いは?」をご参照ください。
資本剰余金を原資とする配当金のメリット
資本剰余金を原資とする配当金には、以下のようなメリットがあります。
メリット1. 配当性向を高く維持できる
配当性向とは、株主に対する利益還元率のことを指します。
例えば利益が減少した場合であっても、資本剰余金から配当を出すことで、配当性向を高く保つことができます。
配当性向を高く保つことで、株主の信頼や満足度を高める効果があります。
メリット2. 業績改善のシグナルとなる
例えば利益剰余金が赤字の場合でも、資本剰余金から配当を出すことで、配当を継続させることができます。
配当を継続させることで、業績悪化は一時的なものであるというシグナルを送る効果が期待できるケースもあります。
メリット3. 株価が安定する
一般的に、配当を維持することで株価は安定する傾向にあります。
メリット4. 配当による税負担を軽減できる
利益剰余金から配当を出すと全額が源泉徴収税の対象になりますが、資本剰余金から配当を出すと払戻し部分は非課税となります。
非課税部分が存在することで、株主の手取り額を増やす効果があります。
資本剰余金を原資とする配当金の注意点
資本剰余金を原資とする配当金には、以下のような注意点があります。
注意点1. 株主総会や取締役会の承認が必要である
資本剰余金から配当を出す場合は、株主総会または定款で定めた場合は取締役会の決議が必要です(会社法第454条)。
これは、利益剰余金から配当を出す場合と同様です。
注意点2. 株主への通知や開示が必要である
資本剰余金から配当を出す場合は、株主への通知や開示が必要です(会社法第455条)。
具体的には、以下の内容を通知または開示しなければなりません。
- 1株当たりのみなし配当金額
- 純資産減少割合
- 配当原資となるその他資本剰余金の種類
- 配当原資となるその他資本剰余金の発生理由
まとめ
この記事では、資本剰余金を原資とする配当金のメリットと注意点について解説しました。
資本剰余金を原資とする配当金には、利益剰余金を原資とする配当金とは異なる特徴や効果があります。
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今回ご紹介した資本剰余金を原資とする配当はもちろん、利益剰余金を原資とする配当にも対応しています。
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