みなし配当とは?自己株式の取得や剰余金の配当による発生するケースについて解説

2023-10-02


みなし配当とは

みなし配当は、株式会社などの企業が株主に対して、実際には配当金として支払われない一定の金額を実質的に配当に相当すると「みなし」て課税関係が発生する制度です。
例えば、自己株式の取得を行う際に、自己株式の譲渡価額が株式を譲り渡す株主の取得価額を上回る場合にその譲渡価額と取得価額の差額をみなし配当として取り扱います。
自己株式の取得は会社が株式を買い戻し、資本の払い戻しに相当する行為ですが、譲渡価額が取得価額を上回る場合は実質的には利益の払い戻しであることから配当と同様に課税関係が発生します。


みなし配当が発生するケース

1.自己株式の取得

発行会社が自己株式の取得を行う際、みなし配当が発生する場合があります。
自己株式の取得価額は会社の時価総額をベースに算定されることが一般的です。非上場企業の時価総額の算定方法はいくつかありますが、単純化するため純資産価額方式で算定したケースで例をご紹介します。

※純資産価額方式とは、会社の総資産や負債を原則として相続税の評価に洗い替えて、その評価した総資産の価額から負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた残りの金額により評価する方法です。


①会社設立時の状況
資本金500,000円、資本剰余金(資本準備金)500,000円として会社を設立し、株主に100株を交付(1株当たり10,000円)しました。

②自己株式の取得
企業活動を実施した結果、直近の純資産は以下の通りで、発行済み株式数の10%を自己株式として取得します。
【直近の純資産】
単位:円


純資産合計は2,000,000円ですので会社の時価総額は2,000,000円です。このうち発行済み株式の10%を自己株式として取得する場合、適正な譲渡価額は200,000円となります。
一方で、自己株式を譲渡する株主は会社設立時から株主であると仮定すると資本金+資本剰余金=1,000,000円の10%である100,000円が取得価額となります。
そのため、100,000円で取得した株式を200,000円で売却することから差額の100,000円は実質的に利益剰余金の還元であり、みなし配当として株主に所得税額が課税されます。

2.資本剰余金を原資とする配当が資本の払い戻し相当額を上回る場合

資本剰余金は株式を発行した時など資本取引によって発生する余剰金のことで、資本準備金その他資本剰余金から構成されます。
資本準備金は株式払込金額のうち資本金としなかった額で、払込金額のうち最大1/2を資本準備金とすることができます。

資本剰余金を原資として配当を行う場合、原則として資本の払い戻しとして取り扱います。しかし、資本剰余金が資本の払い戻し相当額を上回る場合、当該差額をみなし配当(みなし譲渡収入ともいいます)として処理します。
以下のケースで資本剰余金を原資として配当を行った場合にみなし配当が発生します。

①会社設立時の状況
資本金500,000円、資本剰余金(資本準備金)500,000円として会社を設立し、株主Aに100株を交付(1株当たり10,000円)しました。

②第三者割当有償増資を実施
新株を発行し、資本金を2,000,000円、資本剰余金(資本準備金)2,000,000円増額し、株主Bに100株を交付(1株当たり40,000円)しました。

③資本剰余金2,500,000円(一株当たり12,500円)を配当として株主全員に還元した。
【配当直前の純資産】
単位:円


【みなし配当の金額】
株主A
配当の額1,250,000円(12,500円×100株)ー 資本の払い戻し相当額250,000円(出資時株価10,000円×100株×純資産減少割合25%)=1,000,000円

株主B
配当の額1,250,000円(12,500円×100株)が資本の払い戻し相当額1,000,000円(出資時株価40,000円×100株×純資産減少割合25%)=250,000円

3.その他特殊な事例

・非適格合併や非適格分割型分割、非適格株式分配といった税制非適格な組織再編の場合について

税制の適格要件を満たさない組織再編を実施した場合、組織再編に伴う株式等の譲渡にみなし配当として課税される場合があります。

・会社を解散する場合に残余財産の分配額が出資相当額を上回る場合

会社を解散する場合に残余財産の分配額が出資相当額を上回る場合は、その差額は実質的に利益でありみなし配当として課税されます。
具体的な計算方法は「2.資本剰余金を原資とする配当が資本の払い戻し相当額を上回る場合」と同様になるため割愛させて頂きます。

みなし配当が発生した場合の株式発行会社の対応

1.源泉徴収

資本剰余金の配当や自己株式の取得によってみなし配当が発生した場合、株式発行会社は源泉徴収を実施する必要があります。
源泉税率は以下の通りです。非上場株式の場合は法人、個人いずれも20.42%となります。
源泉徴収した所得税はみなし配当の発生の翌月10日までに納付する必要があります。

2.みなし配当の通知

みなし配当が生ずる支払をする者(資本剰余金の配当や自己株式の取得においては株式発行会社)は、その支払を受ける者に対し、その支払を受ける者ごとに、交付金銭の額、みなし配当の額、源泉徴収税額等を通知する必要があります。
配当計算書や自己株式の株式売買契約書等にその旨を記載することで対応します。

みなし配当が発生した場合の株主の対応

1.所得税の課税

みなし配当が発生した場合、株主には個人の場合は所得税、法人の場合は法人税が課税されます。
個人かつ非上場株式の場合には総合課税の対象となり累進課税税率が適用されます。みなし配当のうち20.42%が源泉徴収されていますので確定申告にて最終的な納税額を調整します。

まとめ

みなし配当の概要と発生するケース、発生した場合にどのような影響があるか解説しました。
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。

株式会社Qureテクノロジーズでは資本政策アドバイザリーを実施しており、みなし配当を考慮した自己株式の取得、配当といったスキームの検討等のアドバイスや各種調整手続きを支援しております。お気軽にお問い合わせください。