新株発行による増資の手続きについて
2023-2-20
新株発行による増資とは、会社が成立後に新たに株式を発行することで、返済不要な資金調達を実施する方法です。
新株発行の方法として、公募、第三者割当て、株主割当て、などの種類の方法があります。
- 公募 :広く一般から株主を募集して、募集株式を発行する方法
- 第三者割当て:提携先企業など特定の第三者に割り当てることにより、募集株式を発行する方法
- 株主割当て :既存の株主に株式の割当てを受ける権利を付与して、持株数に比例して、募集株式を割り当てる方法
新株発行の手続きの概要は大まかに以下の通りとなります。
- 募集事項の決定
- 募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対する通知
- 書面や電磁的方法による申込み
- 会社による割当て
- 出資の履行(払い込み)
- 引受人が株主となる
- 変更登記
新株発行の手続き
1.募集事項の決定
新株発行の際には、まずは会社法に定められている募集事項(会社法199条)を決定する必要があります。
この募集事項の決定は、公開会社の場合では取締役会(会社法201条1項)、非公開会社の場合では株主総会の特別決議(会社法199条2項)で決定する必要があります。ただし、例外的に公開会社の場合でも、現在の株価よりも特に低い金額で発行する場合には株主総会の特別決議で決定する必要があります。
会社法によって定められている募集事項(会社法199条)は以下の通りです。
- 募集株式の数
- 募集株式の払込金額
- 現物出資の場合は、その旨と当該財産の内容及び価額
- 募集株式と引き換えにする金銭の払込、または現物出資の目的財産の給付の期日またはその期間
- 増加する資本金および資本準備金に関する事項
以下は、非公開会社において金銭出資を目的とした株主割当による募集株式を発行した場合の株主総会の議案の例となります。
議案 株主割当による募集株式の発行に関する件
記
1 募集株式の数 普通株式○○株
2 募集株式の払込金額 1株につき金○○万円
3 募集株式と引換えにする金銭の払込期日 令和○年○月○日
4 増加する資本金額及び資本準備金額 金○○万円
5 令和○年○月○日現在の株主に対し、その持株数○○株につき○株の割合をもって割り当てる。
6 募集株式の申込期日 令和○年○月○日 ※
※株主総会開催⽇と申込期⽇との間は中2週間の期間を置く必要があります。この期間は、総株主の同意があれば短縮することができます(総株主の同意書及び商業登記規則61条2項 の証明書の添付が必要となります )。
7 払込取扱金融機関 株式会社○○銀行○○支店
2.募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対する通知
株式会社は、募集に応じて募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対し、次の事項を通知する必要があります(会社法203条1項)。
ただし、会社が以下の事項を記載した金融商品取引法2条10項に規定する目論見書を申し込みをしようとしている者に交付している場合などは、以下の事項の通知は不要となります(会社法203条4項)。
- 株式会社の商号
- 募集事項
- 払込取扱場所
- 以上のほか、申込みをする者が知らなければならない重要な事項
3.書面や電磁的方法による申し込み
募集株式の申込みをしたい者は、自身の氏名または名称と住所、申し込みをしたい募集株式の数を会社に伝えます(会社法203条2項)。
こちらは書面だけでなく、会社が認める場合には電磁的方法(電子メールやウェブサイトなど)による申し込みも認められています(会社法203条3項)。電磁的方法による申し込みは、紙の書面を交付するよりも、時間やコストのパフォーマンスが良くなる可能性のある利点があります。公募増資などは証券会社を通して投資家から広く資金調達を行って新株式を発行する場合もあります。
4.会社による割当て
会社は、申し込み者の中から募集株式の割当てを受ける者を定めたのち、誰に何株発行するか、その者に割当てる募集株式の数を定める必要があります(204条1項)。
ここでは割当て自由の原則が妥当します。すなわち、新株発行の割当ておいて、会社は募集株式の申込み者に対して、申し込み数よりも減少することや、申し込み者が多数の場合には、基本的に誰に割り当てても構いません。ただし、公正かつ合理的な基準に基づいて割当てが行われる必要があります。例えば、新株発行の割当てにおいて、公正かつ合理的な基準として考えられるのは、申込み者の出資意欲や財務状況、会社との関係性や将来性などです。これらの基準により、会社は割当先を適切に選択することができます。
5.出資の履行(払い込み)
株式の引受人は、払込期日または払込期間内に、会社が定めた銀行などの払込取扱場所において払込金額の全額を払い込む必要があります(208条1項)。
また、出資の履行をしない場合には、株式の引受人は株主となる権利を失います(208条5項)。
6.引受人が株主となる
払込期日までに払込があった募集株式については払込期日に、払込期間を定めた場合は出資の履行を完了した日に、株式発行の効力が生じて株式の引受人はその日から株主となります(209条1項)。
7.変更登記
新株発行の効力が発生すると、会社の発行済株式総数に変更が生じ、資本金の額が増加するので、法務局にて変更登記をする必要があります(会社法911条3項5号9号、915条1項2項)。
新株発行により資金調達した際における会計上の仕訳
ここでは簡単な例として、株式100円を発行して、100円の資金調達に成功した際の会計上の仕訳を記載します。
(※払込金額の全額を資本金として処理すると仮定します。)
(借) 現金及び預金 100 (貸) 資本金 100
なお、こちらの仕訳によって、損益計算書には影響はありません。
新株発行と株価の関係
一般的に、新株発行は企業の財務基盤の強化や新規事業の展開などによって長期的な株価の上昇が見込める場合があります。しかし、株主割当増資を除き、新株発行によって既存の株式の価値が希薄化されるため、短期的には株価(一株当たりの実質価額)が下落します。そのため、新株発行における株価算定は時価総額を考慮し、既存株主の希薄化が一定程度に収まるように調整されます。具体的には株価算定方法は類似企業比較法、DCF法などがあります。
新たに新株発行する際の株価算定は会社の実質価額(バリエーション)や既存株主の希薄化効果を考慮し、その算定には専門的な知識が必要になります。バリエーションの算定に公認会計士などの専門家を関与させることをご検討ください。
まとめ
新株発行による増資手続きについて解説しました。新株発行のために実施しなければならない事項や会社法の手続きについてまとめております。本記事が参考になれば幸いです。
株式会社Qureテクノロジーズでは資本政策アドバイザリーを実施しており、新株発行時のバリエーションの算定や各種調整手続きを支援しております。お気軽にお問い合わせください。