株式分割とは?メリットやデメリットなど手続についてわかりやすく説明
2023-5-08
株式分割とは
株式分割とは発行済の既存株式を細分化して発行済株式総数を増加させることをいいます。
たとえば、1株を3株に分割したり、3株を10株に分割することができます。株式の分割の仕方は、分割比率で決めます。1株を3株にする場合には分割比率「1:3」、3株を10株にする場合には分割比率「3:10」ということになります。株式分割によって、発行済株式総数は増加しますが、増加分の株式は持株数に応じて無償で株主に付与されます。そのため、株式分割を行っても会社財産や資本金等の金額に変動はないです。
増資や株式無償割当てとの違い
【増資との違い】
株式分割と増資との違いは、資本金等の変動にあります。
増資とは、株式会社が資本金を増やすことで新たに発行した株式と引き換えに投資家からの出資を受けることです。そのため、発行済株式総数は増加し、会社財産や資本金等の金額も増加します。
株式分割とは、発行済の既存株式を細分化して発行済株式総数を増加させることをいいます。新たな出資を受けることはなく、既存の株主に対して同じ比率で新しい株式が付与されるため、発行済株式総数は増加しますが、会社財産や資本金等の金額に変動はないです。
増資については以下のコラムでも記載しているのでご参照ください。
新株発行による増資の手続きについて
【株式無償割当てとの違い】
株式分割と株式無償割当てとの違いは、自己株式の扱いと増える株式の種類にあります。
株式無償割当てとは、株主に対して新たな払込みをさせないでその会社の株式を割り当てることをいいます(会社法185条)。
株式分割では自己株式も株式分割の対象になるため、分割割合に応じて自己株式の数も増加します。他方、株式無償割当てでは自己株式に株式を割当てることはできません(会社法186条2項)。
また、株式分割では同一種類の株式の数が増加します。他方、株式無償割当てでは同一種類の株式だけでなく異なる種類の株式も取得させることができます(会社法186条1項1号)。
非上場会社が株式分割を行うメリット・デメリット
株式分割は上場会社だけでなく、非上場会社が株式分割した場合にも以下のメリット・デメリットがあります。
【メリット】
- 将来の上場に向けての基盤固め
- 従業員へのインセンティブ
- 資金調達の容易化
1.将来の上場に向けての基盤固め
株式会社が上場する際に要求される上場審査基準には形式要件として株主数(上場時見込み)や流通株式数(上場時見込み)などが設けられています。
株式分割を実施して、株主数や流通株式数などが増加すれば将来的な上場に向けての形式的要件を満たすために株式分割を実施することがあります。
上場審査基準 | 日本取引所グループ (jpx.co.jp) (最終アクセス 2023/03/18)
2.従業員等へのインセンティブ
株式分割によって、発行済株式数が増えることで流通単位が小さくなり株式の交付が容易になるため、従業員等への株式報酬の交付も容易になり、従業員等のモチベーション向上や人材の確保など従業員へのインセンティブに繋がります。
3.資金調達の容易化
株式分割後の1株当たりの価格が低くなることで、新規投資家が参入しやすくなり、資本調達が容易になります。
【デメリット】
- 株主管理コストの増加
- 流動性向上の効果は限定的
1.株主管理コストの増加
株式分割を実施した結果、発行済株式数が増えることで流通単位が小さくなり株式の交付が容易になるため、将来的に株主数が増加する可能性があります。この場合、株主名簿の更新や株主とのコミュニケーションや株主総会の運営コストが増加します。
ただし、こちらについては株主名簿を作成するクラウドシステムも利用が広がっており、クラウド株主名簿システム「Shares」ではフォームに従って株主を登録するとクラウド上に簡単に株主名簿が作成でき、各種帳票作成が可能です。クラウド株主名簿システム「Shares」を利用した場合、株式分割を実施し、将来的に株主が増加したとしても株主管理コストの増加を抑えることができます。
2.流動性向上の効果は限定的
非上場会社の場合、株式取引の機会が限られているため、上場会社と比較した場合、株式分割による流動性向上の効果は限定的です。
株主分割に必要な手続
【決定機関】
会社が株式分割をしようとする場合は、以下の手続が必要となります(会社法183条1項2項)。
- 取締役会設置会社の場合 取締役会決議
- 取締役会非設置会社の場合 株主総会普通決議
取締役会設置会社の場合は取締役会決議のみでよいため、迅速な意思決定が可能です。
また、株式分割は株主総会普通決議で足ります。なぜなら、株式分割は単に株式を分割する手続のため、1株当たりの価格は低下しますが、その分所有株式数も分割割合に応じて増加するため、既存株主の利益を害することがないためです。
【決議事項】
株式分割をするときは、以下の内容を決議する必要があります(会社法183条2項)。
- 株式の分割により増加する株式の総数の、株式の分割前の発行済株式の総数に対する割合。なお、種類株式発行会社にあっては、分割する株式の種類の発行済株式の総数に対する割合(会社法183条2項1号)
- 株式分割の基準日(会社法183条2項1号)
- 株式分割の効力発生日(会社法183条2項2号)
- 会社が種類株式発行会社である場合には、分割する株式の種類(会社法183条2項3号)
【効力発生】
基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主は株式分割の効力発生日に、基準日に有する株式の数に、分割割合を乗じて得た数の株式を取得する(会社法184条1項)。
種類株式の場合も同様である(会社法184条1項)。
【株式分割と発行可能株式総数との関連事項】
株式分割を実施すると発行済株式総数が増加するため、株式分割後に定款に定める発行可能株式総数を超過しないよう留意する必要があります。
例示として、発行可能株式総数500株、発行済株式数200株の会社が1株を3株に株式分割する場合、600株(=200×3)となり発行可能株式総数500株を超えてしまいます。
この場合、そもそも発行可能株式総数は定款の記載事項(会社法37条)であるため、原則として会社法466条の規定により株主総会特別決議によって発行可能株式総数の数が記載されている定款を変更する必要があります。
ただし、種類株式を1種類しか発行していない会社の場合は、株主総会特別決議によらずに発行可能株式総数が分割割合に応じて増加する定款変更をすることができます(会社法184条2項)。
すなわち、上記の例示では1株を3株に分割するときは、取締役会の決議で発行可能株式総数を500株から1,500株に変更することが可能です。これは、株式分割の手続きを円滑に実施するためと考えられています。
なお、現に2種類以上の種類株式を発行している会社の場合、ある種類の発行可能株式総数の数を変更しようとする場合は、原則通り株主総会特別決議により定款変更をする必要があります(会社法184条2項)。
さらに、ある種類株式の株式分割のより、別の種類株式の株主の利益に影響を及ぼす場合は種類株主総会の特別決議も必要となります(会社法322条1項)。
【基準日公告に関する事項】
上記【決議事項】の項目で記載した通り、株式分割をするときは、定款に当該基準日及び当該事項について定めがある場合を除き、当該株式分割に係る基準日を定める必要があります(会社法183条2項1号)。株式分割の決議で基準日を定めた場合には、株式分割の効力発生日の原則として基準日の2週間前までに公告を行う必要があります(会社法124条3項)。
ただし、基準日は定款に別段の定めがある場合、公告する必要がありません(会社法124条3項ただし書き)。すなわち、定款に株式分割の基準日を定めているときは、株式分割に関する基準日等の公告は不要です。
株式分割を実施した際の登記変更
実際の登記のおける詳細な手続きについては司法書士などの専門家にご相談ください。
【登記変更の必要性】
株式分割を実施した場合、発行済株式数の総数が変更されます。また、発行可能株式総数が変更される場合もあります。発行可能株式総数や発行済株式総数は、登記事項となっているため、株式分割後には変更登記が必要になります。登記事項に変更があった場合は、変更が生じた後2週間以内に行う必要があります(会社法915項1項)。
【登記変更に必要な書類】
- 登記申請書
- 取締役会議事録または株主総会議事録
- 株主リスト(株主総会で決議を行った場合)
- 登記委任状(司法書士など代理人に依頼する場合)
【株式分割の登記申請にかかる登録免許税】
株式分割による変更登記を申請する際には登録免許税として3万円がかかります。
会計処理
株式分割は特段の会計処理は不要となり、貸借対照表や損益計算書に影響はありません。
これは、株式分割を行うと発行済株式総数は増加しますが、増加分の株式は持株数に応じて無償で株主に付与されるため、株式分割を行っても会社財産や資本金等の金額に変動はないためです。
まとめ
株式分割実施の際における基本的な事項について解説しました。株式分割のために実施しなければならない事項や会社法の手続きについてまとめております。本記事が参考になれば幸いです。株式分割実施の場合の株主管理などはクラウド株主名簿システム「Shares」を利用すると簡単に行うことができます。問い合わせページよりお気軽にお問い合わせください。