自己株式とは?自己株式の取得手続きについて解説

2023-3-03


自己株式の取得について無制限に認められているわけでなく、法令で定められている手続きを踏む必要があります。
本ページでは自己株式の取得における手続き等の基本的な事項について解説します。

自己株式とは

自己株式とは、株式会社が発行している株式のうち、株式会社が保有する自らの株式のことを自己株式といいます。いわゆる「自社株買い」とも言われるものです。
以前は、自己株式の取得は原則として禁止されていましたが、平成13年(2001年)の法改正から自己株式の取得は可能となりました。

自己株式の取得の目的

自己株式とは株式会社が発行している株式のうち、株式会社が保有する自らの株式のことを自己株式といいます。
自己株式の主な取得目的として、株式の消却によって一株当たりの利益や純資産を高めることができる点や自社の持株比率を高めて、敵対的買収や少数株主の不満を防ぐことができる点があります。
ただし、自己株式の取得には注意点として、会社の資金が必要であり、その分流動性や投資余力が低下する点や自己株式の取得には法律上の制限や手続きがあり、自己株式の特性や目的をしっかり把握した上で慎重に判断する必要があります。自己株式の取得については、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

自己株式取得の制限の理由

自己株式については、以下の理由から会社法で定められた自己株式取得手続きに基づいて行われる必要があり、取得額についても財源規制に関する制限がかけられています。

  1. 株主平等の原則に反する恐れ
  2. 会社債権者を害する恐れ
  3. 株式取引の公正を害する恐れ
  4. 会社支配の不公正を招く恐れ


自己株式を取得できる場合

会社法155条にて、自己株式の取得できる場合が13項目設定されています。

  1. 取得条項付株式を自己株式として取得する場合
  2. 譲渡制限株式を自己株式として取得する場合
  3. 株主との合意により取得する場合
  4. 取得請求権付株式を自己株式として取得する場合
  5. 全部取得条項付種類株式を自己株式として取得する場合
  6. 相続人から株式を取得できるよう定めている場合
  7. 単位未満株を取得する場合
  8. 株主の所在が不明な場合
  9. 組織再編などで端数株式が出る場合
  10. 他企業の全ての事業を譲受する際に、株式を取得する場合
  11. 合併の際に、存続会社として相手企業の株式を取得する場合
  12. 吸収分割の際に、承継会社として相手企業の株式を取得する場合
  13. 記の条件以外に法務省令で定める場合


株主との合意による自己株式の取得

ここでは株式会社が自己株式を取得する場合で、最も想定されるパターンである株主との合意による自己株式の取得について、
①特定の株主からの取得でない場合、②特定の株主からの取得の場合、③市場取引または公開買付による株式の取得の3つに分けて説明します。

①特定の株主からの取得でない場合

特定の株主からの取得でない場合とは、全株主を対象にするミニ公開買付けとも言われています。
この方法は株主平等原則を守るために採用されることが多いです。特定の株主からの取得でないため、株主全体に対して公平に株式売却の機会を与えることができるためです。
大まかな流れとして以下の通りとなります。

  1. 株主総会普通決議(156条)
  2. 取締役会の決議(157条)
  3. 株主への通知・広告(158条)
  4. 株主の会社に対する譲り渡しへの申し込み(159条1項)
  5. 会社の株主からの譲り受け(159条2項)


1.株主総会普通決議

株式会社が株主との合意により自己株式を有償で取得するには、あらかじめ、株主総会の普通決議によって、以下の事項を定める必要があります(会社法156条1項)。
・取得する株式の数
・株式を取得するのと引き換えに交付する金銭等の内容およびその総額
・株式を取得することができる期間

2.取締役会の決議

株式会社は156条の株主総会普通決議に基づいて自己株式を取得しようとするときは、その都度、取締役会の決議によって、以下の事項を定める必要があります(会社法157条1項2項)。
・取得する株式の数
・株式1株を取得するのと引き換えに交付する金銭等の内容および数もしくは額またはこれらの算定方法
・株式を取得するとの引き換えに交付する金銭等の総額
・株式の譲渡しの申込みの期日

3.株主への通知・広告

会社は、全株主に対して取締役会の決議で定めた、取得する株式の数や金銭等の総額などの事項(会社法157条)を通知する必要があります。公開会社の場合は公告でも構いません。(会社法158条)

4.株主の譲渡しの申込み

上記の通知を受けた株主は会社に対して、株式の譲渡しの申込みをすることができます。(会社法159条1項)

5.会社の株主からの譲り受け

株式会社は株式の譲り渡しの申込みの期日において、譲り渡しの申込みをした株主が株主の譲り受けを承諾したものとみなすことができます(会社法159条2項)。

②特定の株主からの取得の場合

特定の株主から取得する場合に多いケースとして、株式公開買付け(TOB)や敵対的買収(M&A)から自社を守るために、友好的な株主から自己株式を取得する場合や株価が低迷しているために、自社株式の需給バランスを改善するために、大口株主から自己株式を取得する場合が想定されます。

特定の株主からの取得の場合は、①特定の株主からの取得でない場合と比較して、事前に株主に売主追加請求権が付与されている点と一部の事項で特別決議が必要になる点が異なります。

  1. 事前に株主に売主追加請求権を与える必要あり(160条2項3項)
  2. 156条の事項(取得する株式の数など)の決定と158条の事項(株主への通知)について、株主総会特別決議が必要(160条1項)
  3. 取締役会の決議(157条)
  4. 株主への通知・広告(158条)
  5. 株主の会社に対する譲り渡しへの申し込み(159条1項)
  6. 会社の株主からの譲り受け(159条2項)


1.事前に株主に売主追加請求権を与える必要あり

株式会社は特定の株主から株式を取得しようとする場合は、そのほかの株主に対して売主追加請求権を与える必要があります(会社法160条2項3項)。
売主追加請求権とは株主に対して平等に売却機会を与えるため、株主は原則として、「特定の株主」に自らを加えたものを株主総会の議案とすることを請求することができる権利です。

2.156条の事項(取得する株式の数など)の決定と158条の事項(株主への通知)について、株主総会特別決議が必要

会社が特定の株主との合意によって自己株式を取得する場合には、会社法156条1項各号の事項と158条1項の株主に対する通知について、株主総会の特別決議によって決定する必要があります(会社法160条1項)。

3.取締役会の決議~6.株主の会社からの譲り受け

①特定の株主からの取得でない場合と同様になります。

③市場取引または公開買付による株式の取得

会社が、市場取引または公開買付けによって自己株式を取得する場合には、原則として株主総会の普通決議が必要になります(会社法165条1項)。ただし、この場合は会社法157条~160条までの規定は適用されません。
例外的に、取締役会設置会社は、定款に定めを置けば、市場取引によって自己株式を取得することを取締役会の決議で定めることができます(会社法165条2項3項)。

自己株式取得の際の財源規制

自己株式を取得する際は株主に交付する金銭等の帳簿価額の総額は、自己株式取得の効力発生日における分配可能額を超えてはなりません(会社法461条1項2項)。

【分配可能額の計算式】
分配可能額 = その他資本剰余金の額 + その他利益剰余金の額 ― 自己株式帳簿価額

これは自己株式の取得は株主への会社財産の分配となるため、一定の制限を設けることで会社債権者保護を図る必要があるためです。

自己株式を既存株主から取得した場合におけるみなし配当

みなし配当とは、会社が株主に対して利益を分配することではないが、実質的には利益が分配されていると見なされる場合に発生するものです。
みなし配当は税務上の概念であり、法人税法上の配当金として課税されます。
なお、みなし配当には源泉税(源泉徴収)が発生します。みなし配当の金額に源泉税率(上場企業株式20.315%、非上場企業株式20.42%)を乗じた金額を自己株式の買取金額から控除し、株主に対価を支払います。
なお、源泉税は自己株式の取得の翌月10日までに所轄の税務署へ納付する必要があります。
配当を行った会社が非上場企業かつ株主が個人の場合、受け取った株主は総合課税(累進課税の対象)となる点、ご留意ください。

【みなし配当の額の計算式】
みなし配当 = 自己株式の買取金額 - 資本金等の金額

【資本金等の金額の計算式】
資本金等の金額 = 1株当たりの資本金等の額 × 取得する自己株式の数
1株当たりの資本金等の額  = 取得直前の資本金等の額 ÷ 取得直前の発行済株式等の総数

自己株式を取得した際における会計処理

ここでは簡単な例として、株式会社が自己株式を取得した際の会計処理を記載します。

みなし配当が発生するケース
税務上にてみなし配当が発生する場合は源泉徴収が必要になる場合があり、その場合は預り金などの科目で処理されます。
【会社側の会計処理】

【株主側の会計処理】
ここでは有価証券売却損が発生したと仮定して記載します。


みなし配当が発生しないケース 
株式会社が市場を通じて自己株式を取得した場合は、株主が特定できないため、みなし配当を認識できないことから、みなし配当が発生しないケースとなります。
【会社側の会計処理】
(借) 自己株式 ××× (貸) 現金及び預金 ×××

【株主側の会計処理】
ここでは有価証券売却損が発生したと仮定して記載します。

まとめ

自己株式の取得における基本的な事項について解説しました。自己株式取得のために実施しなければならない事項や会社法の手続きについてまとめております。本記事が参考になれば幸いです。
株式会社Qureテクノロジーズでは資本政策アドバイザリーを実施しており、自己株式の取得における適切なタイミングや方法、取得額や取得比率などのアドバイスや各種調整手続きを支援しております。お気軽にお問い合わせください。